ムスッとした顔にリヒトさんが溜息を吐いた。
…だって、慣れてもらう訳にはいかない。
だから私は絶対にいい顔してやらないっ!
「手に触れても?」
私はその顔のまま頷いた。
断らないのは、リヒトさんが本気で悩んでいると打ち明けられたから。母親の面影を失くしたい…とまで言われたら「だめ!」なんて言えるわけないじゃない。
手袋を外したリヒトさんの手が私の手に触れる。一瞬離れそうになった彼の手は恐る恐る私の手を覆う。
……本当に嫌な顔してる。
嫌、と言うより葛藤してる感じ。
「無理しなくていいのに」
「……そう言う訳にはいかないでしょう。私は貴女の番犬ですから」
嫌々だった癖に。
「外では和と湊が居てくれるから。大丈夫だよ」
「貴女って人は…そうやってまた煽る」
緑色の瞳と目が合った。
…手は躊躇するのに、顔はちゃんと見てくれるんだ。
リヒトさんに繋がれた手が口元まで運ばれる。そして、
チュッ、
唇が触れた。
手の甲へに残る感触。
「これの意味、わかりますか?」
……そんなの、


