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何処かの路地裏。

日本語じゃない漢字ばかりが並んだ看板。半分消えかけのネオンがチカチカとしている。


バシャッ、


雨上がりの泥水に座り込む一人の男。
息を切らし、上を向く。


不知火留華だ。


右手には拳銃を持っていた。



「お嬢…会いたい。早く、」



血の付いたシャツとボサボサの髪。
ポツポツと生えている髭。


どれもこれも、花の知らない留華の姿。



「老闆、」



黒いガウンを着る男に”ボス”と呼ばれハッとする。
少し綻ぶ顔をしてよろよろと立ち上がった。


留華は「どうだった?」と中国語で答えた。


男は吃音し、躊躇する…が、留華に急かされ意を決したように口を開く。


──────それを聞いた留華は、



ガシャンッ!!!



緑色が無くなりかけのフェンスが大きく揺れた。


「……なんで、俺だけ見てくれない?何が駄目なんだ?どうして?」


ブツブツと呟く留華の声は振り始めた雨の音で消えてゆく。遠くから聞こえる数人の足音が留華の方へ、段々と近付いて来た。

男はそれに気付き、拳銃を取り出した。



「老闆!」



何も用意しない留華に男は叫んだ。何故なら周りには、黒い仮面を付けた数人が拳銃や刀を持つ”刺客”がいたから。

慌て構える男と、ただ静かな留華。


──────次の瞬間、


パァンッ!!


大きな音は本降りの雨よりも大きく響き渡った。
驚く男と刺客。視線は留華の方を向いている。


「…俺がどんな思いで今まで一緒にいたと思ってる?」


ぐしゃっ、と前髪を掻き上げ、据わった目でそこにいる全員に向け殺気を送る。


「あー…、もうどうでもいいや。全部、」


ニコリ、と笑顔を向けた。
強い殺気に全員が後退りする。



「待っててお嬢。すぐ迎えに行くから…ね?」



留華はある写真にキスをした。