離れる湊と無くなる唇の感触。
瞬きを忘れて、その行動を見ていた。


今、キス…されたの?

───…嘘。




「お嬢、」




抑えつけられていた手が離れた。
重みが無くなった手首は軽い。


湊の指が、その手が。
私の頬に向かう──。





「やッ…!」






子供の頃、見た童話。
留華が読んでくれたあの絵本の中。

王子様がくちづけするシーンがあった。

お姫様はそれで目覚めて、王子様と結ばれる。



自分もそうなりたいと思っていた。憧れていたから。

そしてその相手が──、





”留華であればいい”と。
そう、思っていた。




憧れは一瞬の内に、バラバラに崩れて落ちた。