天然お嬢と双子の番犬さん

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ドガッ!


大きな音がして壁が揺れたような気がした。壁に背中を思いっきり当てたのは頬を怪我した湊だった。

湊の前に人影。胸倉を思いっきり掴んだのは和だ。


「ここまで来るのに、どれだけ時間がかかったと思ってる?」

「っっ、」

「あいつが居なくなって、ようやく僕達がこの地位まで来た。お嬢の隣に来れたんだ。それをお前は…!!」


俯いたままの湊は唇を噛んでいた。
和は顔を歪め、手を離した。


「お嬢と何があった、湊」


和の問いに湊は、言葉を詰まらせながら口を開いた。


「……あの日の事を、お嬢が思い出した」

「っ…、あの日って。まさか…」


和が口元を抑え、慌てたように目を泳がせた。


「っ…早く、お嬢の所に」

「不要な事だ」


和と湊は同時に横を向く。
気配を感じなかった留華の方を。

廊下の壁にもたれかかり、腕を組む留華が不敵に笑っている。


「今すぐお前等の事をぶっ潰したいよ。俺のお嬢に勝手に手出したこと…」


留華は大きく舌打ちをした。しかし直ぐに二人に笑顔を向けた。いつもは花がいる時にしか笑わない留華が、気味が悪いぐらいに笑顔だ。


「お嬢なら今頃、洗面所だ。泣いたから顔を洗いたいんだと」


簡単に居場所を言った留華に驚きながらも、和と湊は花の所に向かおうとした。


洗面所は留華の脇を通るしか道はない。
和に続き湊が後を追う──────。




「自爆してくれて礼を言うよ。お陰で簡単に手に入りそうだ」




和がすれ違う瞬間…留華が小さく、笑いながらそう言ったのだ。



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