愛来を呼ぶ声が聞こえるがここにいる自分を呼んでいるものではない。
鬼気迫るようなウィルの姿に声をかけることなくそっと扉を閉めた。護衛騎士二人にお礼を言って、自分の部屋へと戻っていく。
あんなウィルを見たことがない。何が起きているのか聞くこともできなかった。聞いたら何かが壊れてしまうような気がしたから。怖い……どうしてだろう。確実に自分に関わる何かが起こっている。自分の部屋の扉を開けベッドに潜り込むと体を丸めて目をつむる。眠れるわけがなかった。しばらくそうしていると、扉が開く音がする。ベッドに近づいてくる足音、かすかにウィルの優しい香りが漂ってくる。
ウィル……?
ウィルは愛来が眠っていると思っているのかそっと頬にに触れ、キスを落とす。
愛来の頬から唇が離れるのと同時に頬に温かい何かが落ちてきた。
えっ……。
涙……?
うそっ……。
ウィル……泣いてる……?。
ドクンッドクンッと心臓が嫌な音をたて始める。
胸に忍び寄る不安感。
今ここでウィルに聞いてみようか?ううん、できない。だってきっとウィルは大丈夫心配いらないって言うだろう。
それなら他の誰かに聞くしかない。
考えを巡らせていると、ウィルが部屋から出ていく。
このままではいけない。
きっとこれは私に関係のあることなんだから。
*
翌朝
愛来は一睡もすることができなかった。
嫌なことばかりが頭に浮かぶ。
小説ならここで本物の婚約者が現れるとか、隣国が友好の証として姫との婚姻を求めてくるとか?私との婚約ができなくなる状況だってりするのかな?最近の異常気象も気になるし。
愛来は朝食を食べ終えると身支度を整え、ある場所へと向かっていた。
それは初めて愛来がこの世界にやってきた日に入った部屋。
謁見の間へ。


