レッスン室の扉の前ではウィルが嬉しそうに両手を開いて愛来を待っていた。愛来は迷うことなくウィルの胸へと飛び込んだ。それは当然淑女の振舞とは言えず、ギギギッと首をイッツェル夫人の方へ向けると、夫人は口元を押さえ驚きの表情を見せていた。

「まあまあ。お二人が仲がよろしいことは聞いておりましたが……。この目で確認ができてうれしゅうございます。おほほほ。」と言いながら夫人は後ろへ下がっていった。「それでは失礼いたしますと」言う言葉とともに。

 なぜ後ろも見ずにあの速さで動けるのか不思議だ。

 それにしても……やってしまった。

 青ざめる愛来の頭にキスを落とすウィル。

「またうわさが広まってしまうな」

 尾ひれのついた噂は事実とは違うことが多い。

 つい最近も、『聖女様はウィル殿下を懐柔し掌で転がしている』と言う噂を侍女達がしているのを聞いて卒倒した。

 かいじゅう?

 懐柔って何?


 懐柔!!


 懐柔もしてないし、掌で転がしてもいないよ。


「俺は構わないよ。懐柔して掌で転がされても」

「ウィルがそういうことを言うから更に変な噂になっちゃうんですよ」

「いいんじゃないか?俺たちは愛来の言うラブラブと言うやつだ」

 ぼんっっと愛来の顔に熱が集まり限界突破した。

 ハクハクと動かす愛来の唇にウィルが口づける。

「今日も愛来は可愛いな。好きだよ」

 そんなことを言われればもうたまらない。

 もじもじしながら愛来も答えてしまう。

「私の方が好きだもん」

 そう言うとウィルはいつも破顔する。これ!!この顔やばいの。めっちゃ可愛い。

 毎日この悶絶地獄?至福?を味わう時が、最近の愛来の楽しみになっていた。

 最高なの!!

 でもこの顔は他の令嬢には見せたくないわ。

 私ってば案外独占欲が強かったのね。

「愛来?今、何を考えている?」

 ウィルを独り占めしたいとか言えるわけがない。

「えっと……今夜のご飯は何かなって」

「ほう……余裕だな。愛来は俺のことを考えてくれているものと思ったが違うのならば……俺のことだけを考えるようにしてやろうか?」

 ひぇーー。

「それはどういう意味でございますか」

 わざと丁寧に話す愛来の問いにウィルは不敵な笑みをこぼす。

「ふっ言葉の通りだが?」

 ゆっくりとウィルの顔が愛来に近づくと触れるだけの優しいキスからいつもとは違うディープなキスへと変わっていく。

「んっ……まっ……っ……」

 体から力が抜けていく感覚。

 なに……。

 唇を食べられちゃう。

 もう無理。

 やっと唇が離れ、愛来はうるんだ瞳でウィルを見つめた。

「っ……ぐっ、たまらないな」

 そう呟いたウィルは愛来の唇にもう一度唇を重ね合わせる。




 幸せな時間だった。




 この時までは……。