まずは首の骨に沿って手を滑らせていく。

 あーやっぱりかなり凝ってる。

 肩もやばい、何この凝り方。

 今まで沢山の人達の施術をしてきたが重症度がかなり高い。近所のおじちゃんおばちゃん達の肩こりのレベルじゃ無い。

 首から肩にかけてもみほぐしていくがこれではダメだ。

「すいません。ちょっとこちらにうつ伏せで寝てもらってもいいですか?」

「……何故だ」

「いいから言うことを聞いて下さい。ところでお名前を聞いてもよろしいですか?」

 やや沈黙があってから男性が答えた。

「……俺はウィル・ラ・ロイデンだ」

「えっと……ウィルさんとお呼びすればいいですか?それともロイデンさん?様?」

「……」

 あれ……?

 発音とかが違ったかな?

 すると「ウィルでいい」男性がぶっきらぼうに言い放った。

「えっでも……」

「ウィルでいいと言っている」

 あーもしかして外人さんだから、さんや、君などの敬称はいらないのかも……。

「分かりました。じゃあウィル始めますね」

 うつ伏せになったウィルのシャツを背中が見えるまでたくし上げると、背中にそっと触れていく。

 んーここかな?

 愛来は散歩に出るときにいつも持ち歩くポーチの中から針を五本を取り出した。ポーチの中には針五本とスマホが入っていた。


「お前何をする気だ?」

「ちょっと背中に針を刺すわよ」

「えっ……ちょっと」

「動くと危ないから動かないで下さい。いくわよ」

 愛来はウィルの戸惑いの言葉を無視して手早く三本の針を刺していく。

 よしっこれでOK。

「このまま動かずに休んでいて下さい。」

「お前、針を刺したのか……?」

「髪の毛と同じ位の太さの針ですから、痛みはほとんど無いと思います。さあ、眠っていいですからゆっくり何も考えずに休んで下さい」

 目を見開き驚くウィルだったが、よほど疲れていたのか愛来の言われるがままに目を閉じ、眠りに落ちていった。

 それから十分後、背中の針を抜いてウィルに声をかけた。

「ウィル!!ウィル!!」

 愛来がウィルの体を揺するも起きる気配が無い。

 爆睡ね。どうしよう上を向いて欲しいのに。

 困り果てていた愛来だったが、ウィルが徐に寝返りを打った。

 こんな狭いベンチで落ちずに寝返りが打てるなんてすごい!!

 でも良かった。これなら……。

 愛来はウィルの右手の甲と左足の足背に一本ずつ針を打った。

 よしっ。これでお終い。

 これでグッスリ眠れば良くなるはず。


 *



 二十分後。


 これで良し。

 愛来はウィルに刺さっていた針を抜き、首や肩を確認する。

 うん。

 ずいぶん良くなったわ。

 こんなに重たい服着てるんだもの肩もこるわ。

 ウィルが着ていた服に目を向けていると「ふっあーー」っとあくびが出た。

 東屋の外を見ていると外はいい天気で風も気持ちいい。

 私も眠たくなってきちゃった。

 愛来はゆっくりと目を閉じると夢の世界へと落ちていった。



 *



 ふわふわふわ……温かくていい香り。安心する。


 何故か温かくて柔らかい物が頬に触れるのを感じて愛来は目を覚ました。

「愛来やっと目を覚ましたか」

 そう言ったウィルが愛来をのぞき込み口角を上げると「ふっ」っと笑った。

 うわっーー。

 ウィルのドアップ

 あっ瞳の色翡翠色だ。

 パニックの自分とやけに冷静な自分がそこにはいた。

 ひえっーー!!

 すごい。なにこの笑顔……これがちまたに言う顔面破壊力!!!!

 何だろう、この笑顔王子様じゃん。愛来はぽつりと呟いた。

「王子様……」

「ん?何だ?」

「えっ……いや……えっと……あれ?」

 何だろうこの感じ……。

「あの……ウィルってもしかして……」

「ああ。俺はこの国、アルステット王国の王太子で、王子で間違いないぞ」

 ひぃえぇぇぇぇぇーーーー!!!!

 やっぱり、そんな気がしてたよ。

 だって、あの重い服についてた勲章とか宝石みたいなのとか……ここが日本じゃないこととか、薄々気がついていたよ。

 でも、頭がついていかなくて現実逃避してた。

 だってあり得ないじゃない現実にこんなこと。

 ここが異世界だなんて。