「愛来、今日行かないと後悔するぞ。俺が側にいてやるから、ロドスと……それからリドとルノアに言いたいことがあるんじゃないのか?」

「……」

 そうだ……私はまだリドに謝っていない。

 ロドスさんにお別れを言ってない。


 愛来は自分の足で立ち上がると黒曜石のように黒く美しい瞳に力強さが戻っていく。

 その表情にウィルは、ハッと魅せられていた。




 愛来は久しぶりに外の空気を吸った。夜は昼間に比べて涼しくて肺いっぱいに空気を吸い込むと気持ちが良かった。

 愛来はウィルと共に城門までやって来るとそこには馬の手綱を持ったアロンが待っていた。


 アロンさんの後ろにいるのって……馬?


 愛来の知っている馬より一回りほど大きなその馬は骨格がしっかりしているが毛並みが真っ白で白銀の月に照らされているせいか、ぼんやりと光り輝いているように見える。馬はウィルが近づくと嬉しそうに首を振る。愛来も馬に近づくと、たてがみがは白い体の毛色とは違う、薄紫色をしていた。


 なんて綺麗な馬。

 愛来の身長では見上げるように大きな馬だったが恐ろしさは全くなかった。穏やかで優しい瞳のその馬の額に手をかざすと馬は嬉しそうに愛来の手にすり寄った。

 それを見ていたウィルが嬉しそうに目を細める。

「すごいな愛来はもうルドーになつかれたのか。ルドーはプライドが高いから人には余り触らせないのだがな」

 そう言ってウィルが愛来を抱き上げるとルドーに乗せてくれた。ウィルは愛来を鞍に乗せると鞍の横に付いている太いベルトを腰に装着した。ウィルも愛来の後ろに飛び乗るとベルトを締める。


 ベルト?

 愛来は自分とウィルにきつく巻かれたベルトに違和感を覚える。

 愛来は日本で遊び程度に乗馬体験をしたことがあったが、このようにベルトを腰に巻くことは無かった。

 馬自体が大きいし落ちないようにということなのか……?。

「では行くぞ」

 そう言ってウィルがルドーの腹部を軽く蹴るとルドーが歩き出した。思いのほか震動が少なく、乗り心地の良さに愛来が驚いていると、何処に隠していたのかルドーの背中に大きな翼が現れた。

えっ……何?

ぐんっと体にGのような圧がかかり、ジェットコースターに乗ったときの浮遊感がやって来る。

「きっ……キャーー!!」

悲鳴を上げる愛来の体をウィルは手綱を持たない右腕で抱きしめる。


「愛来大丈夫か?ゆっくりでいいから目を開けてごらん」

 愛来は恐怖できつく瞑っていた目をそっと開いていくと、目の前には大きな月と星がキラキラと煌めいていた。


 この世界には地球のような人工的なビル明かりなどが無いため、星が降り注いで来るかのような沢山の星々に愛来は飲み込まれそうな感覚を覚える。


 こんなに沢山の星見たの初めて。

 なんて綺麗なの。


 愛来は背中をウィルに預け、放心状態でいると、リドの家が見えてきた。ルドーは丘の上に立つリドの家の庭にフワリと降り立った。