馬車は城の門をくぐり抜けると玄関前ではなく城の庭園で止まった。そこで従者の一人が馬車のドアを開けるとそこにはウィルが立っていた。ウィルは馬車の中で固まっている愛来の手を取り馬車から降ろすと、庭園の中央にある噴水までやって来た。

 そこまでやって来るとウィルは優しく微笑み両腕を開いた。


「おいで愛来。今日はよく頑張ったね」


 愛来は自分の胸の前で組んでいた両手の力を抜くとウィルの胸に飛び込んだ。

 どうして……。

 私は……。

 私は……ロドスのために……もっと出来ること……。

 悔やんでも、悔やんでも……。

 自分に出来ることは何も無かったように思う。

 先ほどまで涙は涸れてしまったと思っていたのに、涙は後から後から流れてくる。

「ウィル……私……っ……」

「愛来……沢山泣くと良い。この周りは人払いさせたし、噴水の音で声はかき消されるから大きな声を出しても大丈夫だぞ」

 ウィルは愛来を抱きしめる腕の力をつよめた。それは愛来を守るように力強く優しく。


「何も、何もできなかった……。こんなに早くその時が来るなんて……話たいことや、してあげたいこと沢山あったのに……」

「愛来は良くやった」

「それでも……もっと、何か……何か出来たんじゃないかって、思ってしまうの!!」

 愚痴ってばかりの私。

 最低だ。

 それでも声に出さないと、壊れてしまいそうだった。


「愛来……ロドスは幸せだったと思うぞ。自分の家族に見守られ、愛されて逝けたのだ」



 ウィルの言葉が愛来の胸に優しく響いた。




 *



 あれから何日こうしていただろうか。

 ウィルが心配して何度も部屋に訪れているいることは知っているが、会う気にはなれなかった。

 ただ泣いてばかりの自分に嫌気が差す。

 最低だ。

 今誰かと顔を合わせると八つ当たりしてしまいそうで怖かった。



 そんな日々が続いた三日目の夜。



「愛来、ドアを開けてくれないか……今日でロドスが亡くなって三日目だ。この国では人が亡くなって三日目の夜に弔いの儀式を行う。ロドスと最後の別れだ……行こう愛来」

「……」


 ロドスさんとの最後の別れ。

 私には行く資格は無い。

 リドとルノアさんに合わせる顔がない。

 扉に手をかけた愛来だったが、その場にうずくまり両膝に顔を埋めた。


 その時、扉の向こう側から「パチンッ」とウィルが魔法を発動させる指の音が聞こえると、扉が開いた。ウィルは愛来の前まで行くと膝を折る。

「愛来お前は良くやった。我が国の民を安らかに天へと導く手助けをしてくれたことを感謝する。さあ愛来立って、ロドスが待っている」


「ウィル私は二人に合わせる顔がないです」

「大丈夫だ。リドはお前に会いたがってると思うぞ」

 そんなわけない……嘘つきな私に会いたいなんて……。