ライデン治療院に帰ってきた愛来をライデンは優しく迎え入れてくれた。

 ライデン先生はロドスさんの病気について知っていたのだという。もう手の施しようが無いことも……。

 だから愛来がリドの家に行くと言った時あんなに渋ったんだ。


 自分は何て非力なんだろう。


 *


 晴れた日の夕方は王都がオレンジ色に染まる。

 レンガ造りの街並みはオレンジに染まると美しい一枚の絵画のよう。

 今日はその景色も愛来の目には入らない。

 愛来はライデン治療院からゆっくりと歩きながら王城へと帰ってきた。いつもなら門番の騎士と挨拶を交わすがボーッと門を通り過ぎていく。


 その姿はまるで夢遊病者が歩き回っているかのようで、門番の騎士は愛来に声をかけることが出来なかった。

 愛来はこのまま部屋へ戻るきになれず、初めてこの異世界へやって来た庭へとやって来た。美しい庭は愛来の心をほんの少しだけ上げてくれた。が、すぐに気持ちが沈んでいく。


 泣いてはいけないと思いながらもロドスさんとルノアさんの前で泣いてしまった。一番辛い本人と家族の前で……。

 最低だ。

 自分が不甲斐ない。

 あんなに泣いたのにまた涙が出てくるなんて。

 空を見上げると白銀の大きな月が光り輝きだしていた。その光が涙でにじんでぼやけている。

 愛来は立ち尽くし白銀の月を眺めていると後ろから近づいてくる人物に抱きしめられた。一瞬なにが起こったのか分からず体を強ばらせたが、ふらりと香ってきた優しい匂いに愛来は体の力を抜いた。

「ウィル……」

「愛来何があった?」

 優しい匂いに、優しい声音。

 この人はいつも私を包み込んでくれる。


 愛来は今日あった事を涙を流しながらウィルに話した。震える声で全てを話し終えた愛来はウィルの方へ振り返った。

「ウィル、私は聖女なんて呼ばれても病気を治してあげることが出来ない。私は何も出来ない」

 ボロボロと涙を流す愛来をウィルは自分の胸へと抱き寄せると、この世界について話し出した。

「愛来この世界ファーディアセレスティーでは回復魔法や、治癒魔法が存在しないと言うことは前に話したな?それがどうしてだか分かるか?」

 愛来はウィルの胸に顔を埋めたまま首を左右に振った。