愛来は両手を組み合わせ祈った。

『針をお願い』

 針を召喚した愛来はロドスに針治療を施していった。




 三十分後、愛来は針を丁寧に一本ずつ抜いていく。

 それを見ていたリドが目を輝かせながら愛来に尋ねてきた。

「聖女様どう?おじいちゃん治った?」

「……」

 愛来は俯き答えることは出来なかったが、顔を上げるとリドに微笑んだ。

 するとずっと寝たきりだったロドスがゆっくりと体を起こしニコリと笑った。

「聖女様ありがとうございました。体がとても楽になりました」

 それを見たリドが嬉しそうにピョンピョンと跳びはねながらロドスに飛びついた。ロドスはそんなリドを愛おしそうに見つめながら優しく頭を撫でた。

 愛来は嬉しそうにロドスに抱きついているリドを見つめながら唇を噛みしめ涙を我慢した。

 泣いたらダメだ。

 リドごめん、ごめんね。私にはおじいちゃん……ロドスさんを治してあげることが出来ない。

 ロドスさんの病気は悪性の腫瘍……癌だ。しかもステージ四。

 私の母もそうだった。

 気づいた時にはステージ三と診断されて、あっという間にステージ四(末期)へと進行してしまった。あの時の母と同じ症状だ。

 私には痛みを和らげてあげることしか出来ない。

 今もほんの少し痛みを和らげてあげただけ。

 病気を治してあげられたわけじゃない。



 その時、入り口からガタリと音がして振り返ると、リドの母親であろう女性が両手で口を押さえ、目に涙を溜めながら震えていた。

「あっ、ママお帰り。聖女様におじいちゃん治してもらったんだよ」

「聖女様?」

「ぼく町まで行って聖女様連れてきたんだ」

 リドの母親は涙に濡れた瞳を大きく見開きながら、愛来に頭を下げた。

「聖女様このような所までおいで下さり、ありがとうございます。私はリドの母親でルノアと
言います。父のこのように元気な姿久しぶりに見ました。ありがとうございました」

 ルノアは嬉しそうに笑い、父ロドス元気な姿に喜んだ。

「……」

 私は話さなくてはいけない。

 私はロドスさんの病気を治したわけじゃない。

「リドお願いがあるの。これでおじいちゃんに果物を買ってきてくれる?」

「うん。わかった」

 手渡された硬貨を握り絞めリドが外へと出て行くのを確認した愛来は、ロドスとルノアに病状の説明と愛来自身の話を始めた。

 自分は聖女と呼ばれていても病気を治すことが出来ないこと。

 しかし痛みを柔らげてあげることは出来ること。

 それからロドスさんの病気について。

 愛来は泣いてはいけないと両手を握り絞め、奥歯を強く噛みしめたが瞳に涙がたまっていく。

「ごめんなさい、ごめんなさい……私にはロドスさんを治してあげる力はありません」

 愛来の話を黙って聞いていた二人がふわりと笑い、ルノアが愛来を抱きしめた。

「あなたはやはり聖女様です。私達にひとときの安らぎの時間を下さいました。父の痛みを和らげることは出来るのですよね?それでじゅうぶんです。ね、お父さん」

「その通りだ。こんなにスッキリとした気分の良い日は久しぶりだ。ありがとうございました」

 二人からお礼を言われ、溜まった涙が瞳からこぼれ落ちていく。



 ごめんなさい……。

 ごめんなさい……。


 私は何も出来ない……。