リミルは奥歯を噛みしめると愛来が抱きしめているガギル・ドラコを睨みつけジリジリと間合いをとっている。

「愛来様、ガギル・ドラコをすぐに離してこちらへ……早く!!」

 愛来はリミルの切羽詰まった様子に驚きつつも抱きしめているガギル・ドラコと呼ばれているもふもふを撫でた。

「きみは何か悪いことをするの?」

 愛来がもふもふに問いかけると、意思の疎通ができるのか「キュッキュッ」と体を揺すった。

 そっか……。


「リミル大丈夫ですよ。この子悪さはしないって言ってるし。その木刀を降ろして」

「いえ……しかし……」

 愛来は嬉しそうにもふもふと目を合わせる。

「きみは男の子?女の子?名前はあるの?」

 するともふもふは男の子に反応し、名前は無いらしく体を揺すった。

 男の子なんだ、名前は無いのね。

 それなら……。

 名前付けちゃおっと。

「えっと……もこちゃんなんてどう?」

 もふもふは「ギューーッ」と変な鳴き声を出してきた。

 あれ?ダメだったのかな?

「じゃあ、白ちゃん」

「ギューーッ」

 これもダメか。

 愛来がいろいろな名前を呼んでいくも気に入らないらしい。


 う゛ーーん難しいな?

「じゃあ、ギル!!ギルちゃんはどう?」

 するともふもふは嬉しそうに愛来の腕の中で飛び跳ね「キュイ~ッ」と大きく鳴くと体全体を発光させ、魔方陣を作り出したかと思うと愛来の胸へとめがけて放ってきた。愛来はそれを体で受け止めると光はいつの間にか消えていた。


「今の何だったの?」


 愛来は自分の体を確認してみるが特に変わった様子は見られない。


 その様子を周りで見守っていた人々は、あり得ないとばかりに眺めていた。

「マジかよ。あのお嬢ちゃん魔獣と契約しちまったよ」

「すげーー!!魔獣飼い慣らすとか出来るのかよ」

 契約???

 愛来は何がすごいのか分からず、頭の中は?だらけで首を傾げた。

 リミルは愛来に恐る恐る近づくとガギル・ドラコを冷ややかな目で見つめていた。

「あなたは、本当に愛来様を傷つけないのですよね?守って下さるのですか?」

「キュイ~」と可愛らしく鳴いたギルの様子にリミルほっ息を吐きだし、握っていて木刀を消した。

 少しずつ騒ぎが落ち着いてくると噴水の裏側で一人の男性が腰を押さえてしゃがみ込んでいるのが目に入った。

「あの、大丈夫ですか?腰を痛めちゃいましたか?」

「ああ、今の騒ぎで腰をやっちまったらしい」

 あちゃーー。

 ぎっくり腰かな?

「おい、あそこに転がってるのロッドじゃねえか?」

「あ、ホントだどうしたんだ?」

「どうやら今の騒ぎで腰をやっちまったらしい。悪いがライデン先生の所まで連れて行ってくれねえか?」

 ライデン先生?

 病院に行くのかな?


 腰を痛めた男性は声をかけてきた男性二人に抱えられ歩いて行ってしまった。愛来は腰を痛めた男性が気になりコッソリと後を追うと、三人は広場から少し離れた家の中に入っていった。

「愛来様は治療院に興味があるのですか?ここは王都の中でも指折りのライデン先生の治療院なんですよ」

「そうなんだ。中に入っても大丈夫かな?」

「大丈夫だとは思いますが……」

「こちらの世界の治療法を見てみたいの。ね、ちょっとだけ……」

 愛来はライデン治療院のドアをノックし、中をのぞき込んだ。治療院の中は木のぬくもりを感じる優しいインテリアで飾られていて、ゆったりと落ち着く雰囲気になっていた。

 愛来は中にいるであろう人の断りも無く、治療院の中へと入っていく。奥の棚に沢山の本と見たことも無い花や葉が瓶の中に入っていた。

 手前は待合室で、衝立の向こう側は診察室かな?

 奥にある瓶の中身は……これ全部薬草?

 興味津々で治療院の中を見渡していると、人が入って来たことに気がついた一人の老人が姿を現した。

「何だ?また患者か?どうしたんだいお嬢ちゃん。風邪か?怪我か?」

「あっ、いえ……私は患者ではないのです。その……私をここで働かせて下さい」