嬉しくなった愛来はドレスを手でそっと掴むと淑女のお辞儀をして見せた。

 そこへ扉のノックと共にウィルが入って来た。リミルは思わぬ男性の入室にどこから木刀を取り出したのか、それを振り上げウィルの頭めがけて振り下ろした。ウイルはそれをサッとよけ、平然と部屋の中へと入って来る。

「殿下どういうつもりですか?女性の部屋に許しを得る前に入るなんて」

 リミルはもう一度木刀を握り絞め木刀を振り上げようとしていた。

「リミル、君こそ王太子である俺に木刀を振り上げるとはどういうつもりだ?」

「まさか殿下だとは思いませんでしたのよ」

 そう言ったリミルが木刀を振り下ろすと今度はそれをアロンが手のひらで受け止めていた。ウィルといえば、ジッと愛来を瞬きもせずに見つめていた。

「ウィル?」

「あっ、ああ……すまない」

 ウイルは気まずそうに目を泳がしている。

 何故か耳が赤くなっているような?

「それよりウイル見て下さい。リミルが着せてくれて髪型も大人っぽくしてくれたんです。今日はお化粧もしてるんですよ」

「そっ、そうか」

 驚いているウイル反応が面白くて愛来はクスクスと笑いながらクルリと回って見せた。するとドレスの裾がふわりと花が咲いたように広がった。


 その様子をウイルは目を見開いたまま見つめていた。

「ああ、美しい……森の妖精が現れたのかと思ったぞ」

 そう言って笑ったウィルの顔が余りにも綺麗で、愛来の心臓がドキンッと跳ねた。

 やだ、どうしよう……胸がドキドキする。

「森の妖精なんて言い過ぎです。えっと……でも、ありがとう」

 サラリとこんな言葉を言ってしまうなんて、やっぱりウィルは王子様なんだなと思う。美しいと言って笑ったウィルの顔はキラキラで美しいのはウィルの方だ。

 王子様にときめいてはいけないと、脳内で警笛をならすがドキドキと高鳴っていく心を止める術は無かった。

 彼は王子だ勘違いしてはいけない、お世辞とはいえ褒められて喜んでいた心が、スッと冷たくなっていく。

 王子と一般人の愛来では住む世界が違いすぎるのだから。


 たまたまお祖父ちゃんの功績のおかげでお城で暮らすことが出来ているだけ。

 私はこれからこの世界で一人で生きていく術を見つけなくてはいけない。

 一人で……。


 芽生え始めた淡い恋心を愛来は気づかないふりをして蓋をした。



 一緒に生きる事は出来ないのだから……。