「ねぇ、くるみ」



 朝、リュックにお弁当を詰め込んでいたら、お母さんが声をかけてきた。



「蓮くん……あの子、大丈夫かしら」



 お母さんは少し疲れたような顔で言う。

 わたしは黙って顔を上げる。



「最近は学校で食べるからって、朝ご飯も食べないで出ていっちゃうのよ? 夕飯もバイト先で食べてるっていうけど、本当に食べてるのかしら」



 食べてるわけない。バイトなんか、行ってないんだから。



「夜もね、遅くまで電気がついてるって、お父さんが言うの。若い子はみんなそうなのかもしれないけど。それにこの前、偶然見ちゃったのよ。夜中にふらりと外に出ていくところ。あの子……ちゃんと眠れてないんじゃないのかしら?」



 お母さんは気づいている。だってお母さんは『母親』だから。



「もしかしたら蓮くん、くるみには、なにか話してるかもしれないって思って」

「……ううん」



 わたしは首を横に振る。

 わたしからは言えなかった。

 高折くんが、本当はバイトに行っていないこと。

 この家にいるのは、息がつまると言ったこと。



 ため息をつくお母さんの前で、わたしは制服のブレザーを羽織り、「いってきます」と家を出た。