「詳しいことは知らないけどさぁ」



 廊下の窓辺に寄りかかって、新名くんがわたしに言った。

 休み時間の教室前は、生徒たちがそれぞれの方向へ行き交っている。



「永峰のこと、許してやって欲しいんだ」



 新名くんは今朝、わたしと永峰さんがもめていたことを言っているようだった。



「あいつ、蓮のことになると、見境なく突っ走っちゃうからさ。たぶん蓮がくるみちゃんと仲良くしてるのも、気に入らないんだろうと思うけど」



 新名くんはそう言って、自分で納得するようにうなずく。



「でも少しだけ、永峰の気持ちもわかるんだ」



 わたしは黙ったまま、新名くんの顔を見る。

 新名くんはわたしに向かって小さく笑いかける。



「おばさんの事故が起こったとき、蓮、永峰と一緒にいたんだよ。そんでたまたまふたりで、事故現場を通りかかったらしくて……永峰がパニック状態で、おれに電話してきてさ。血がいっぱい流れてる、ヤバい、どうしようって、泣きながら」



 新名くんはそこまで言うと、窓の外に目を向けた。



「結局おばさんは、そのまま……おれもショックだったけど、永峰もまだ、その時のショックを引きずってる」



 そんなことがあったなんて、わたしはまったく知らなかった。

 その頃のわたしは、高折くんの存在なんか、気にも留めていなかったから。



「だから永峰は蓮のこと、過保護なくらい心配してんだ。ウザいほど、べたべたしてんのも、そーゆーわけ。蓮も永峰の気持ちはわかってると思うけど、特別扱いされるのも嫌で、つい冷たくしちゃうんだろうな」



 廊下にチャイムの音が響く。

 二時間目の授業がはじまる。