「なれるよ」



 ぼそっと高折くんがつぶやいた。



「なれるよ。きっと」



 わたしはひゅっと息をのんで、高折くんを見上げる。

 高折くんはポケットの中から、小さく折りたたまれた紙を取り出し、わたしに見せた。



「あ……」



 高折くんから渡されたのは、惨めにちぎれて失くしてしまった、わたしの絵の半分だった。



「これ、どこに……もう見つからないかもって思ってた……」

「文化祭の夜、あんたが帰ったあと、公園で拾った」



 あそこで落としたんだ。



「一度返そうとしたんだけど、自分でやぶったって言われたから、だったらいらないんだなって思って……」



 だからあの日、わたしの部屋に来てくれたの?



 わたしは半分の絵を受け取ると、そっと胸に抱き寄せた。

 これはわたしの夢を詰め込んだ、大切な絵だ。

 だからわたしはそれを、自分でやぶったりはしない。

 まだ自信は持てないけど、それでも自分の夢を、自分で壊したりはしない。



「おれ、永峰探してくる」



 高折くんが立ち上がった。



「あ、あの……」



 前のドアが開く。



「こらぁ、早く席につけー」



 先生の声が聞こえる。みんながガタガタと席に着く。



「高折くんっ」



 その騒がしさにまぎれて、高折くんが教室を出ていく。

 わたしは、絵を大事に持ってくれていた高折くんに、「ありがとう」を言うことができなかった。