「なんで……」



 高折くんがかすれた声でつぶやく。

 ペンケースの当たった頬が、少し赤くなっている。



「うそついたんだよ……」



 机と机の間でしゃがみこんだまま、その声を聞く。

 高折くんは拾ったシャーペンを、無理やりわたしに押し付ける。



「自分でやぶったって言っただろ?」

「あれは……」



 わたしはうつむいた。



「永峰のことをかばってたわけ?」



 高折くんの前で首を横に振る。



「高折くんに言われたことが……本当だったから」



 そうつぶやいて顔を上げる。



「自分に自信がなかったの。だからあんな絵、やぶられても仕方ないって思った」



 授業の始まるチャイムが鳴った。

 クラスメイト達の声が遠く聞こえる。



「でもやっぱり、そんなのだめだよね。わたしが描いた絵を、わたしが大事にしてあげなきゃ……わたしの絵がかわいそうだよね」



 わたしは高折くんの前でほんの少し微笑む。



「あの絵は……わたしの夢だったから」

「夢?」

「わたし、絵本作家になりたいって思ってるの。だからスケッチブックに描きためてて……まだ、誰にも言ったことなかったんだけど」



 高折くんは黙っていた。

 そうなんだ。誰にも言ったことのなかったわたしの夢。

 いつか誰かを癒してあげられるような、そんな絵本を作ってみたい。