ため息をつきながら教室に入る。

 わたしの隣の席には、高折くんがひとりで座っていた。

 わたしは体を固くする。



 昨日部屋で話して以来、高折くんとはしゃべっていない。

 なにも言わずに、自分の席に座った。

 リュックの中から教科書やペンケースを取り出していると、目の前に永峰さんがやってきた。



「ねぇ」



 どきっとして手を止める。

 わたしはこの前、永峰さんを突き飛ばしたことを思い出す。

 あの時はかあっとなって、あんなことをしちゃったけど、今ではやりすぎたと後悔している。

 わたしが顔を上げると、永峰さんが不機嫌そうに言った。



「あんたなんで新名に謝ってんの? わたしがあんたの絵やぶったって、言いつければいいじゃん」



 わたしは、はっとして隣の席を見る。

 高折くんはわたしたちを無視するように、ぼんやりとスマホをながめている。



「もう……いいの」



 わたしがつぶやいた。



「はぁ?」

「わたしも……悪かったから」



 たしかにあの時は腹が立ったけど、わたしにも悪い所はあったと思っている。

 だいたい誰かに見せる自信もないくせに、あんなものを学校に持ってきたのが間違いだったんだ。

 だけど永峰さんは、さらに怒った声で言う。



「あんたさぁ、わたしのこと、ムカついてるんでしょ?」



 永峰さんが上履きの先で、こつんとわたしの机の脚を蹴った。



「わたしもあんたのことがムカつくんだよ。そうやっていい子ぶって、すぐ謝って、そうしてれば誰かが助けてくれるとでも思ってるんでしょ?」

「そんなこと……」

「ないわけないよねぇ? あんたそうやって男の気を引いてるって、わかってないの? 新名も蓮も、あんたみたいな女に騙されて、ほんとバカだわ」



 わたしはきゅっと唇を引き結び、永峰さんを見上げる。



「なによ。言いたいことあるなら言いなよ」



 永峰さんが机の脚を蹴る。さっきよりも強く。

 机の上に置かれた教科書やペンケースが、カタカタと揺れる。



「言いたいことあるなら言えっての!」



 永峰さんの足が大きく動いた。

 また蹴られる。わたしは思わず目を閉じる。

 次の瞬間、バンッと、机が叩かれる音がした。