翌朝、学校に着くと、教室の前の廊下に新名くんが立っていた。



「おはよう。くるみちゃん」

「お、おはよう……」



 新名くんは腕を組み、廊下の真ん中で仁王立ちしている。

 怖い。新名くん、絶対怒ってる。



「あの……この前はごめんなさい。勝手に帰って……」



 わたしはそんな新名くんの前で、頭を下げた。

 通り過ぎる生徒たちが、ちらちらとわたしたちを見ているのがわかる。

 すると新名くんが、わざとらしいほど大きなため息をついた。



「なんであの時、逃げたんだよ。おれが呼んだの、気づいてたんだろ?」

「……うん」

「そんなに急いで帰らなきゃならない用事でもできたの?」



 わたしは首を横に振り、もう一度頭を下げる。



「ごめんなさい」

「謝らなくていいから」



 新名くんはもう一度ため息をつくと、すっとわたしに手を伸ばした。



「帰るなら帰るってひとこと言ってよ。なんにも言ってくれないと、わかんないだろ?」



 背の高い新名くんの手が、わたしの頭に触れていた。

 なに、これ、どうしよう。頭、動かせない。

 するとその手が、わたしの髪をかき混ぜるように、わしゃわしゃと動いた。



「なにかあったら、ちゃんと言うこと。おれたちトモダチなんだから、隠し事はダメ。わかった?」

「は、はいっ……」



 わたしがよけようとしたら、新名くんは笑いながら、もっと髪をかき混ぜてきた。



「やめて……髪ぐしゃぐしゃになっちゃう」

「おれを無視した罰だ!」



 新名くんは「うりゃー」なんてふざけながら、わたしの髪をくしゃくしゃにする。

 周りで笑ったり、ひやかしたりしている、男の子たちの声が聞こえた。

 もうやめて。みんなが見てる。

 わたしは新名くんみたいに、目立ちたくはないんだから。



 でも新名くんは周りの視線なんか気にしないで、おかしそうに笑っている。

 予鈴のチャイムが響いて、やっと解放されたとき、いつの間にかそばにいた冬ちゃんに聞かれた。



「朝からいちゃいちゃしちゃって。新名くんと、つきあうことになったの?」

「なってない!」



 冬ちゃんは眼鏡の奥の目を光らせて、にやっと笑う。

 きっとわたしたちを見て、漫画のネタが増えたとでも思っているんだ。