「これ、借りてた本」



 ドアを開けると、高折くんが漫画本を差し出した。

 前にわたしが貸してあげた本だ。

 わたしは高折くんの前でうつむいた。



「入ってもいい?」

「あ……」



 わたしの答えを聞く前に、高折くんはわたしの胸に漫画を押し付け、勝手に部屋に入ってきた。

 そして机の上に置いたままの、やぶれたスケッチブックを見る。



「あっ……それはっ……」



 けれど高折くんはわたしを無視して、スケッチブックを手にとった。

 やぶれて半分になった男の子の絵。



『さすが美術部。上手いな』



 そう言ってくれた高折くんの声を思い出して、悲しくなる。



「……見ないで」



 わたしはスケッチブックに手を伸ばす。



「上手くないから……こんなの」

「だからやぶったの?」



 高折くんがわたしに言う。



「自分に自信がないから、やぶったの?」



 わたしはきゅっと唇を結ぶ。

 スケッチブックに触れた手が、かすかに震える。



 そう、わたしは自信がないんだ。

 昨日だってもっと強く「そんなことない」って高折くんに言ってあげたかったのに。

 少しでも力になってあげたかったのに。

 わたしじゃだめだって。こんなわたしじゃだめだって。

 高折くんから逃げたんだ。



 高折くんの前で、小さくうなずいた。

 高折くんはじっとわたしを見下ろしたあと、わたしの胸にスケッチブックを押し付けた。



「……そっか。ならいい」

「え……?」

「なんでもない」



 高折くんはポケットに手を突っ込むと、わたしに背中を向けた。

 そしてそれ以上何も言わないで、わたしの部屋から出ていった。