「やっ……」



 そのまま腕を引っ張られた。

 腰が浮いて、わたしの膝からスケッチブックが落ちる。

 よろけながら立ち上がったわたしの体を、高折くんが無理やり引き寄せた。



 一瞬なにが起きたのかわからなかった。

 気づくとわたしは高折くんの胸の中にいた。

 心臓の音がどくどくと聞こえる。

 これはわたしの音? それとも高折くんの……



「……やだっ!」



 高折くんの体を突き飛ばす。

 違う。こんなの違う。

 こんなの、わたしの知っている高折くんじゃない。

 泣きそうになって顔を上げると、高折くんはひどく冷たい目つきでわたしに言った。



「こういう男だよ? おれは」



 わたしは足元のスケッチブックを拾い上げると、その場から逃げ出した。

 どうして? どうしてそんなことするの?

 もうなにがなんだか、わからない。



 振り返らずにただ走って、家の中へ飛び込んだ。

 お母さんの声が聞こえたけれど、それには答えず二階へ上がる。

 自分の部屋に入ろうとしたら、ミルが隣の部屋のドアの前で、寂しそうにひと声鳴いた。