「おれの母親って、仕事人間でさ。父親が死んじゃったから、働くしかなかったんだろうけど。口癖は、『あんたを大学まで卒業させる』。そんなこと一度も頼んでないのにさ」



 わたしの隣でブランコが揺れる。

 高折くんはもっと勢いよくブランコをこぐ。



「中学の頃はそんな母親に反抗して、遊びまくってた。高校になっても、おれのために仕事してやってんだ的な母親のことが、ウザくてしょうがなくて。おれなんか、親がいなけりゃ生きていくこともできなかったくせに……それに気づいたのが、死んだあとだなんて……遅いよな」



 高折くんはそう言うと、足を地面にこすりつけ、ブランコを止めた。

 そしてわたしの顔を見ないまま、ひとり言のようにつぶやく。



「体壊すほど働いて、頭ぼうっとして、ふらっと車道に飛び出したって……いくら疲れてたって、そんなのありえないだろ? あれは事故なんかじゃない。母さんは自分から飛び込んだんだって、おれは思ってる」

「え……」

「母さんは、どうしようもない息子に嫌気がさして、自分から命を捨てたんだ」



 高折くんがそう言って空を見た。

 わたしはそんな高折くんの隣で、必死に首を横に振る。



「違う。そんなことない。絶対ない」



 高折くんがふっと笑ってわたしを見た。



「どうしてわかるんだよ。あんた、おれのことなんか、なんにも知らないだろ?」



 わたしはもう一度首を振る。

 なんにも知らなくなんてない。



 雷の鳴った日。怖がるわたしのそばにいてくれた。

 文化祭の看板を、一緒に作った。

 バス停のベンチに座って、ふたりで星の話をした。

 利き手が左手のことも。プリンが好きなことも。授業は真面目に聞いていることも……。

 わたしは高折くんのことを、知っている。



 高折くんの手が伸びた。

 ぐっと強い力で、わたしの腕を乱暴につかむ。