きみとぼくの終わらない物語

「なにしてるの?」



 背中に突然声がかかった。

 驚いてスケッチブックを閉じようとして、手をすべらせた。

 床の上にバサッとスケッチブックが落ちる。



「あ……」



 拾おうとしたわたしの手より早く、それを拾い上げたのは永峰さんだった。

 永峰さんが、どうしてここに?



「ふうん。こんなの描いてんだ」



 永峰さんはわたしのスケッチブックをぱらぱらとめくり、鼻で笑う。

 恥ずかしさで、体中がかあっと熱くなる。



「か、返して!」



 わたしが伸ばした手を、永峰さんがさっとかわした。



「いいじゃん。上手いんだから。この絵、わたしにちょうだいよ」

「だめっ……返して」



 それはわたしの夢がつまった、大事な絵だから。



 永峰さんが、最後に描いた絵のページを開く。

 わたしはそれをつかむ。

 もう一度かわそうとして、永峰さんはスケッチブックをひっぱった。



「あっ……」



 紙が破れる、鈍い音がした。

 わたしの手に、ちぎれた半分の絵が握られている。



「やば……でもわたしじゃないからね。矢部さんが引っぱったからだよ」



 永峰さんはそう言って、スケッチブックをわたしの胸に押し付ける。

 わたしは震える手で、それを抱きしめる。



「ねぇ、そんなことより、蓮知らない? もしかしてここに来てるかもって思ったんだけど」

「……って」

「は?」

「出てって!」



 わたしはいままで出したことないほどの、ありったけの力を込めて、永峰さんの体を突き飛ばした。



「蓮なんか知らない! 出てって!」



 よろけた永峰さんの体をもう一回突き飛ばす。

 永峰さんはドアにぶつかって、怒った顔でわたしを見る。



「なにガチギレしてんの? ウザっ」



 背中を向けた永峰さんが廊下を走っていく。

 わたしはスケッチブックを抱きしめたまま、その場に座り込んだ。

 手のひらを開くと、描きかけのあの絵が、惨めにちぎれていた。