きみとぼくの終わらない物語

「じゃあ、わたしは帰るよ」



 美術部の片づけが終わると、冬ちゃんが言った。

 後輩たちはもう帰ってしまって、いなかった。



「うん。お疲れさま」



 冬ちゃんはにやっと笑うと、わたしの背中をぽんぽんっと叩く。



「明日また、どうなったか聞くからね」

「どうにもならないよ」

「いやいや、わたしいま、目の前に転がってる面白そうな漫画のネタに、うずうずしてるのよね」



 そう言って冬ちゃんが、わたしに顔を近づけてくる。



「ちょっと冬ちゃん! わたしを漫画のネタにする気?」

「もちろん! 主人公は地味な女の子。ヒーローは学校一のモテ男、しかもふたり! どっちとくっつくのかハラハラするよねー」



 冬ちゃんはおかしそうに笑うと、「じゃあ、また」とひらひら手を振り、部屋を出ていってしまった。



「もう……」



 静まり返った部屋に残されたわたしは、急に不安になる。

 いままでいつだって、わたしは冬ちゃんと行動していた。

 それなのに最近、いろいろなことが変わりはじめている。

 新名くん……本当に来るのかな。

 本当にわたしと、後夜祭行きたいのかな。



 誰もいなくなった部屋で、バッグの中からスケッチブックを取り出した。

 ずっと描きためていたイラスト。

 勇気が出たら、冬ちゃんに見てもらおうと思ったけれど、今日も見せることができなかった。



 自信がないんだ。なにもかも。

 わたしはふと、雷の鳴った日に、高折くんが言った言葉を思い出す。



『おれも、なんにも自信ない』



 あのときは、うそだって思ったけれど。

 昨日、窓辺で見た高折くんも。

 さっき、この部屋にきた高折くんも。

 なんだかすごく、弱々しく見えた。



 スケッチブックを一枚ずつめくり、絵が描いてある最後のページで手を止めた。

 男の子が、絵本を読んでいる絵。

 幸せそうな表情を描いたつもりだったのに、どうしてだか今日は寂しげに見える。