「くるみちゃんたち、後夜祭出る?」



 ひと気のない美術室で、高折くんたちが買ってきてくれたドーナツを四人で食べた。

 ちょうどお腹がすいていたところだったから、冬ちゃんも喜んでいた。



「後夜祭……出たことないけど」

「出ようよ! 花火とかやるんだよ! 青春じゃないか!」



 新名くんはのりのりだけど、わたしと冬ちゃんは全然乗り気ではなかった。

 後夜祭なんて、目立つ人たちが盛り上がるだけで、地味なわたしたちにとっては、あまり魅力の感じられない行事だ。

 だから冬ちゃんは文化祭が終わったら、今日発売の漫画を買いに行くんだって張り切っていた。



「わたしたちは帰ろうと思ってたけど?」

「なに言ってるんだ、冬ちゃん。帰るなんてもったいない!」

「いや、帰る。漫画本のほうが大事。くるみはどうするの?」

「わたしは……」



 目の前でドーナツを食べている高折くんを、ちらっと見る。

 高折くんも出るのかな、後夜祭。

 そんなわたしの視線を、すかさず新名くんがさえぎる。



「あー、こいつはダメだよ、くるみちゃん。永峰と約束してるから」



 新名くんが高折くんの肩を、ぐいっと引き寄せる。



「べつに約束なんかしてねーし」

「でもさっき迫られてたじゃん。あいつ絶対お前のこと見つけ出して、花火に連れてかれるぞぉ」

「めんどくさ。だったらおれも帰るわ」



 高折くんが新名くんの手を振り払いながらつぶやく。



「帰れ、帰れ。お前はさっさと。じゃあ、くるみちゃん、あとで迎えにくるから」

「えっ、わたしまだ出るとは……」

「迎えにくるから。ここで待ってて」



 新名くんが満足そうに立ち上がる。



「おれらまだ、メイドの仕事が残ってるんだ。行くぞ、蓮!」



 新名くんがあわただしく美術室を出ていく。

 高折くんは最後の一口を口に入れて、面倒くさそうに立ち上がる。

 わたしは黙って、そんな高折くんの姿を見上げた。



「高折くん……」



 思わずわたしがつぶやくと、高折くんが振り返った。



「なに?」

「あ、ううん。なんでもない……」



 高折くんはわたしに背中を向けて美術室を出ていく。

 高折くんはやっぱり、どこかおかしい感じがした。