「そうだったんだ」



 冬ちゃんはわたしの顔を見て言った。



「全然気づかなかったよ。高折くんちが大変だったことも。くるみが高折くんと暮らしてることも」

「ごめんね。今まで言えなくて……」



 冬ちゃんは首を横に振ってからつぶやく。



「じゃあ、高折くんがくるみにやさしいのはさ」



 わたしは冬ちゃんの声を聞く。



「助けてもらった、恩返しみたいなつもりなのかなぁ……」



 わたしの胸が、細い針に刺されたようにちくんと痛む。

 そのとき廊下から大きな声がした。



「おーい! 遊びにきてやったぞー!」



 見ると新名くんが手を振りながら、美術室に入ってくる。



「ちょっと! 静かにしてくれません? 他のお客さんに迷惑です!」

「は? 冬ちゃん。他のお客さんってどこですかー?」



 新名くんが額に手で庇をつくり、周りをきょろきょろと見回している。



「ほんっと、この人、むかつく!」



 冬ちゃんの前で新名くんが笑っている。

 わたしはそっと新名くんの後ろを見る。

 クラスのTシャツを着た高折くんが、わたしに向かって、持っていた袋を高く上げた。