「昨日、どうだったの?」

「え?」



 美術室の入口に置かれた受付席で、冬ちゃんがわたしに聞いた。

 今日冬ちゃんは美術部の当番ではないけれど、ひとりでまわるのは寂しいからって、朝からずっとわたしの隣にいる。



「どうだったって?」

「新名くんと校内まわったでしょ?」



 美術室は閑散としていた。

 廊下の向こうや中庭の賑やかさが、別世界のように思える。



「うん。まわった」

「わたしはてっきり、くるみは高折くんとなにかあるってにらんでたんだけどなぁ」



 冬ちゃんが眼鏡の赤いフレームをくいっと上げて、わたしの顔をのぞきこむ。



「くるみさぁ。高折くんとは、本当になんにもないの?」



 冬ちゃんは新名くんみたいに、わたしと高折くんの関係を怪しんでいる。

 やっぱり冬ちゃんにはちゃんと話しておきたい。



「あのね、冬ちゃん。これはまだ、新名くんにしか話してないんだけど」



 冬ちゃんが不思議そうにわたしを見る。

 わたしは高折くんがいま、うちで暮らしていることを、最初から全部話した。

 冬ちゃんは高折くんのご両親が亡くなったことも知らなかった。

 高折くんはクラスのみんなに知られたくなくて、一部の人にしか話していなかったからだ。