昨日の夜、高折くんはなかなか帰ってこなかった。

 バイトは辞めたって、新名くんは言っていたのに。

 じゃあどこで、何をしているんだろう。



 朝起きると、お母さんがそわそわと朝食の用意をしていた。



「おはよう」

「あ、おはよ。くるみ」



 わたしはいつもの席に座る。

 隣に高折くんはいなかった。



「高折くんは?」

「もうとっくに出かけたわよ。文化祭の準備があるからって。あんたはいいの?」

「うん」



 文化祭の準備ってなんだろう。

 こんなに朝早くから、することなんてないはず。



「ねぇ、今日はお母さんも学校行ってみようかしら。ちょうど仕事お休みだし。蓮くんの様子も見てみたいし」

「ええっ!」



 わたしは持っていたパンを落としそうになる。

 お母さんが学校に来るなんて。

 無理だ。無理、無理、絶対無理。



「ダメっ! 絶対ダメ!」

「どうしてよ。そんなに拒否しなくたっていいじゃない」



 お母さんが不満そうにわたしを見る。



「男の子はそんなの嫌がるよ。お母さんが来てる人なんて、めったにいないし。お母さんだって、高折くんに嫌われたくないでしょ?」

「そうだけど……だったら遠くからこっそり……」

「ダメ! それもダメ!」



 女の子に騒がれている高折くんと、そこに近づくこともできないわたし。

 学校でのわたしたちの差を、お母さんには知られたくない。

 ついでにあのメイド服。

 いや、似合っているからいいんだけれど。



「絶対来たらダメだからね!」

「もうー。ケチね」



 わたしはお母さんに何度も念を押してから、家を出た。