「だめっ……」



 気づいたら立ち上がり、わたしは高折くんにしがみついていた。

 ふわっとどこかへ飛んでいってしまいそうな体を、しっかりと引き戻す。

 ぎゅっと体を抱きしめたまま、ゆっくり顔を上げると、高折くんが驚いた顔でわたしを見ていた。



「……なに?」

「い、いま……飛び降りようとした」

「まさか」



 高折くんがふっと笑う。



「下が騒がしかったから、のぞいただけだよ」



 嘘だ。そんなの嘘だ。

 高折くんが窓枠から降りる。わたしはぱっと手を離す。



「楽しかった?」

「え?」



 わたしは目の前に立つ、高折くんの顔を見た。



「新名とまわって来たんだろ? 楽しかった?」

「どうして……そんなこと聞くの?」



 高折くんだって、永峰さんとまわってきたんでしょ?

 だったらわたしだって聞きたい。

 高折くんは楽しかったの?



 少し離れたところから、男の子たちの笑い声が聞こえた。

 新名くんの声も聞こえる。だけど高折くんはそこにいない。



 窓から風が吹きこんだ。白いカーテンがふわりと揺れる。

 高折くんはわたしの質問には答えずに、もう一度小さく笑うと、誰にも聞こえないような声でつぶやいた。



「今日も……遅くなるって言っといて」



 そしてわたしに背中を向けて、さっさと教室を出ていってしまった。



「くるみちゃん?」



 呆然と立ち尽くしていたわたしに、新名くんが声をかけてきた。



「あいつ、どうかしたの?」

「う、ううん、なんでもない」



 わたしは自分の席に戻って、荷物をリュックに入れる。

 わたしの両手には、まだ高折くんのぬくもりが残っていた。