お昼になって、冬ちゃんが交代しに来てくれた。



「冬ちゃん、ありがとう。美術部のほうはどうだった?」

「ひま過ぎだよー。漫画ずっと読んでた」



 冬ちゃんと笑い合っていたら、わたしを呼ぶ声がした。



「矢部ちゃん!」



 わたしと同じクラスのTシャツを着て、普通の男子高校生に戻った新名くんが、にこにこしながらわたしの前に立っている。



「え? どういうこと?」



 冬ちゃんはわけがわからないといった表情で、わたしと新名くんを順番に見ている。



「悪いね、冬ちゃん。ちょっと矢部ちゃん借りるわ」



 新名くんはそう言うと、わたしの手をさりげなく握った。



「じゃあ行こうか。くるみちゃん」

「え? え?」



 冬ちゃんは目を丸くしている。

 固まったまま動けないわたしは、新名くんに引っ張られるようにして、にぎやかな廊下を歩き出した。



 周りの視線が痛い。

 すれ違う女の子が、みんなちらちらとこっちを見るのがわかる。

 新名くんも高折くんと同じくらい、女の子にモテモテの有名人だったから。