「蓮ー! ちょっと来てぇ」



 教室の奥から声がした。出てきたのは永峰さんだ。

 永峰さんもメイドの服を着ている。すごくかわいい。

 なんだかみんな楽しそうで、「文化祭してる」って感じ。

 でも永峰さんはわたしを見て、あからさまに顔をしかめる。



「蓮! 早く来て!」

「ちょっ、そんなに引っ張るなって。服がちぎれる」



 永峰さんは高折くんの腕をつかむと、ぐいぐい引っ張って教室の奥へ連れて行ってしまった。



「あは。やっぱ、こえーなー、永峰は」



 新名くんはそう言って笑ったあと、わたしに視線を戻す。

 高折くんを目で追っていたわたしは、あわてて新名くんに視線を移した。



「矢部ちゃん」

「はい?」



 新名くんはもう一回笑って、わたしに言う。



「おれ、この役、午前中で終わるんだけど。午後一緒に、校内まわらない?」

「え」



 一瞬意味がわからなかったけど、もしかしてわたしは新名くんに誘われてるの?



「午後、なんか用あるの?」



 わたしは首を横に振る。

 冬ちゃんは午後、わたしと交代で食券係をやるから、一緒にはまわれない。

 美術室にでも行って時間を潰していようかなって、思っていたところだ。



「ちゃんとこれ脱いで、フツーのカッコするからさ。いいでしょ?」

「あ、はい」

「じゃあ、決まりな」



 新名くんが親指をぴっと立てて、さわやかな笑顔を見せる。

 どうしてこんな展開になってしまったのだろう。

 わたしはただ、戸惑うばかりだった。