「あ、いたいた、矢部ちゃーん!」



 大きな声がする。新名くんだ。

 その隣には高折くんがいる。

 やっぱりいつも一緒なんだな、このふたり。



「見てよ、この服! どうだ? 似合ってんだろー?」



 新名くんがわたしの前でくるりと回ると、スカートがふわっと揺れた。

 新名くんは黒いワンピースに白いふりふりのエプロンをつけている。

 頭にはリボンのついたカチューシャ。

 そしてその隣の高折くんも、お揃いの服を着ていた。

 実は、ここはただの喫茶店ではなく、メイド喫茶だったのだ。



「新名。お前、よく恥ずかしくねーな?」

「は? お前だってノリノリでそれ着てたじゃん。メイクまでしちゃってさ」

「これは永峰が勝手にやったんだし」

「でもふたりともすごく似合ってる」



 思わずわたしがつぶやいたら、新名くんが「だろ?」って言って、もう一度回った。

 どうやら新名くんはこの服が、本当に気に入ったみたいだ。

 でもこのふたり、女装してもカッコいい。

 やっぱり元がいい人は違うんだな。



 廊下で下級生たちがキャーキャー言いながら、こっちを見ている。

 スマホをかまえている女の子もいる。

 みんな新名くんたちのことを見に来ているんだ。