「でも秋の夜空はさみしいんだよな」

「……そうなの?」

「明るい星が、少ないから」



 そうなんだ。

 あんまり夜空なんて、見上げたことがないからわかんない。

 それに高折くんが星の話をするってことも、なんだか意外だった。



「星とか……くわしいの?」

「まぁ、少しは。おれの父親、プラネタリウムで働いてた人だったから。小さい頃はよく、星座の話とかしてくれた」



 初耳だった。

 高折くんのお父さんが、そういう仕事をしていたなんて。

 だいたい高折くんの口から、お父さんの話を聞くのも、今夜がはじめてだった。



「父親が死んだ後も、母親は仕事で帰りが遅かったから……いつもミルとふたりで公園に行って、空を見てたんだ。家でぼんやりしてるより、星見てるほうがさ、父さんと一緒にいるような気になれたから」



 わたしの知らない、小さかった頃の高折くん。

 いろんな寂しさを、たったひとりで耐えていたんだ。

 わたしはゆっくりと、高折くんの横顔を見つめる。

 高折くんはちょっと照れくさそうに笑って「……なんてな」ってつぶやく。



「冬になったら……もっと星が見えるの?」

「うん。空気も澄んでくるし、明るい星がたくさんあってきれいだよ」

「そうなんだ……」



 冬になったらもう一度、高折くんから星の話を聞けたらいいのに。

 夜風が音も立てずに通り過ぎる。

 かすかに漂う香りは、学校に咲く金木犀の花。

 わたしのすぐ隣には、触れそうで触れることのない高折くんのぬくもり。



 静かで穏やかな、ふたりだけの時間はすぐに過ぎ、やがてライトを灯したバスが、わたしたちの前で停車した。