「ふう……」



 ふたりの姿が見えなくなると、あたりは静まり返った。

 わたしはバス停まで歩き、ぽつんとひとりで古びたベンチに腰掛ける。

 いつもは数人の生徒が並んでいるのに、今日は時間が遅いせいか誰も来ない。



 ベンチのまわりは薄暗かった。

 人も車も通らなくて、なんだか不安になる。

 わたしはスマホを取り出し、さっき新名くんに送ってもらった写真を開く。

 しぶしぶつきあっているような冬ちゃんと、満面の笑顔の新名くん。

 そしてその隣で困っているわたし。

 この写真……高折くんは見たのかなぁ……。



 そのときわたしの耳に自転車のブレーキ音が聞こえた。

 うつむいていた顔を上げると、目の前に自転車が停まっていた。

 わたしはあわてて、スマホをポケットの中にしまう。



「バス、まだ?」



 そう言ったのは高折くんだった。



「あ、うん。まだ……」



 高折くんは道の端に自転車を停めると、わたしの隣に黙って座った。



「高折くん?」

「バス来るまで、ここにいる」

「え……」



 ライトをつけた車が一台、わたしたちの前を通り過ぎた。

 高折くんはわたしの隣で、暇そうに空を見上げる。



 もしかして……いや、もしかしなくても、高折くんわたしと一緒に、バスを待っててくれてるんだよね?

 自転車なんだから、さっさと帰ればいいのに。

 バスなんか待ってたら、わたしより遅くなっちゃうのに。



「あ」



 隣で高折くんがつぶやいた。



「星が見える」

「え?」



 高折くんと一緒に空を見上げる。

 わたしたちの座るベンチの上に、かすかな星がひかっている。