「かんせーい!」

「終わったー!」



 外が薄暗くなってきた頃、わたしの背の高さ以上ある立て看板と、教室や廊下に飾るいくつかの看板ができあがった。



「ほいっ、矢部ちゃん!」

「え?」



 新名くんがわたしの前で両手を開いている。



「ハイタッチだよ、ハイタッチ。手をここにパンって!」



 そう言った新名くんが、ぐいぐいわたしに手を近づけてくる。

 わたしは仕方なく、両手をちょっと新名くんの手にぶつける。



「いえーい! 次っ、冬ちゃんもいえーい!」

「新名……お前、はしゃぎすぎ」



 冬ちゃんに無理やりハイタッチさせている新名くんを見て、高折くんがあきれている。



「は? だってうれしいじゃないか! この短時間でこんなすげーもん作ったんだぜ? おれたち天才か!」



 新名くんが腰に両手を当て、満足そうにうなずいている。



「おれたちじゃねーだろ? お前は足引っ張っただけじゃん。これ作ったのはこのふたりなんだから」

「うるせー、蓮。お前はいちいち細かいんだよ。それより写真撮ろ、写真!」

「写真?」



 首をかしげる冬ちゃんの前で、新名くんがスマホを取り出す。



「せっかくすごいもん作ったんだからさ。記念に写真撮っとこ。ほら、矢部ちゃんも冬ちゃんも、看板の横に並んで!」



 新名くんにせかされて、わたしと冬ちゃんは看板の左右に立つ。



「じゃ、蓮。撮影頼む!」

「は?」



 新名くんが高折くんにスマホを押し付け、わたしの隣に並んだ。



「はいっ、じゃあ、みんな笑顔で! ほら、矢部ちゃんも笑って!」



 笑ってと言われても……。

 いつも冬ちゃんと静かに使っていた部室で、男の子と写真なんか撮っている自分が信じられない。



 でもこういうの、漫画で読んだことがある。

 「青春」っていうやつだ。

 まさか自分の高校生活に、そんなことが起きるとは思ってもみなかったけど。



「じゃあ、撮るぞ。こっち向いて」



 高折くんの声が聞こえる。

 その瞬間、新名くんの手がわたしの肩にそっと触れた。

 わたしは胸をどきっとさせながら、なにも言えずに前を見つめる。



 スマホを持つ高折くんと目が合った。

 新名くんに触れられた肩が熱い。

 どきどきしているうちに、カシャっとシャッターを切る音が耳に響いた。