「おれがやる」



 精一杯伸ばしたわたしの手を、高折くんがそっとどける。

 一瞬触れた高折くんの手は、すごくあったかい。



「ほら、さっさと塗れよ。新名!」

「うるせー、ちゃんと押さえてろよ!」



 ふたりの声を聞きながら、わたしは冬ちゃんの所へ戻る。

 冬ちゃんはにやにやしながらわたしを見ている。



「ねぇ、くるみ?」

「ん?」

「やっぱりくるみと高折くんって、なにかあるでしょー?」



 わたしは冬ちゃんの前で、思いっきり首を横に振る。



「あるわけないでしょ」

「でもさぁ、高折くんってやさしいよね? 特にくるみにさ」

「そんなこと……ないよ」



 きっと高折くんは、誰にでもやさしい。

 わたしにだけじゃなくて、誰にでも。

 わたしたちが、それを知らなかっただけ。



「ほら、さっさとやっちゃおう? 文化祭、明日なんだよ」

「そうだった! ヤバい。終わるかなぁ」



 冬ちゃんがあわてて作業をはじめる。

 わたしも手を動かしながら、そっと高折くんを見る。

 新名くんと騒いでいる高折くんは、教室にいるときと同じように、楽しそうに笑っていた。