「わかった。この板を、ペンキで塗ればいいんだな」

「大丈夫? 新名くん」

「簡単、簡単。まかせとけって」

「あー! 違う! そこは赤じゃない! 黄色だって言ったでしょ!」

「え、そうだっけ?」

「もういい! そこはわたしがやるから、新名くんはあっち塗って!」



 新名くんと冬ちゃんが騒いでいる。

 こうやって見ていると、案外あのふたり、気が合うのかもなんて思ってしまう。

 ふたりをながめながら、自然と頬がゆるむ。

 そんなわたしの隣で、高折くんの声がした。



「これ、ここに貼ればいいの?」



 高折くんが切りぬいた文字を土台に貼り付けようとしている。



「あ、違う。そこじゃなくてこっち」



 気づくとわたしは高折くんの手をつかんでいて、あわててその手を離した。



「ここに……貼って」

「わかった」



 高折くんは何でもないように、作業を続けている。

 だけどわたしは心臓のどきどきが止まらない。

 やだな。わたしだけ意識しているみたいで、バカみたい。



 わたしは永峰さんがよく、高折くんの背中を気軽に叩いていることを思い出す。

 女の子に触れられることなんて、きっと高折くんは慣れているんだろうな。



「貼ったよ。次は?」

「えっと……じゃあこの文字を、ここに書いてくれる?」

「何色で?」

「うーんと……じゃあ赤で」



 高折くんが、油性ペンのキャップを開ける。

 それを左手で持って、真剣な顔つきで文字を書きはじめる。

 わたしは冬ちゃんの描いたイラストをはさみで切り抜きながら、そんな高折くんの横顔をちらりと見た。



 高折くんは真面目な顔をして、一文字ずつ丁寧に書いている。

 学校ではいつも、新名くんたちとふざけているのに。

 文化祭の準備なんて、真っ先にサボるかと思っていたのに。

 ちょっと意外だな、なんて言ったら、失礼かな。



 シャツの袖をまくった高折くんの腕と、ペンを動かすごつごつした手が目に映る。

 わたしはどうしてか恥ずかしくなって、そっと視線をはずす。