「これ、全部作るの? わたしとくるみで?」



 冬ちゃんが床に重なった、たくさんの段ボールを見下ろして言う。

 確かにふたりだけで、すべての看板を作るのは大変そうだ。



「だ、大丈夫だよ。冬ちゃん絵が上手いし」

「そういう問題じゃないでしょ。時間が足りないよ、ふたりだけじゃ」



 わたしは周りを見回す。

 みんないくつかのグループで固まって、楽しそうに作業をしている。

 中にはただ、おしゃべりをしているだけに見える人もいるけれど。



「手伝ってくれそうな人は……いないよね」



 冬ちゃんが床に座り込んで、ため息をつく。

 わたしもそんな冬ちゃんの前に膝をついた。



「いいよ。やろう。ふたりでやればなんとかなるよ」

「うーん、でもさぁ……」



 ぶつぶつ言っている冬ちゃんの隣に誰かが来た。

 しゃがみ込んで、段ボールを見ながら言う。



「看板って、どうやって作るの?」



 冬ちゃんが驚いて仰け反った。

 声の主は高折くんだった。



「は? なに?」

「だから看板ってどうやって作るの? おれも手伝う」



 冬ちゃんは床にしりもちをついたまま、わけがわからない顔をしている。



「そんなに驚かなくてもいいじゃん。おれは化け物か?」



 高折くんはそう言って、ふっと小さく笑う。

 我に返ったわたしは、あわてて周りを見回した。

 教室の真ん中には、さっきの女の子たちが固まっていた。

 中心にいるのは永峰さんだ。思った通り、こちらをじいっとにらんでいる。



 嫌だ。嫌だ。

 あの子たちに相手にされないのは別にいいけど、標的にされるのは勘弁したい。

 すると冬ちゃんがすくっと立ち上がって、わたしに言った。



「わたし、ちょっと部室行って、絵の具取ってくる!」

「えっ」

「くるみ、あとを頼む!」

「冬ちゃん!」



 逃げた。冬ちゃんは面倒になりそうな雰囲気を察して、逃げてしまった。

 ちょっと待って。残されたわたしはどうすればいいの?