慣れない席で数日を過ごしているうちに、文化祭が近づいてきた。



「蓮ー、こっち来てー」



 ざわつく教室の中、永峰さんの声が聞こえてくる。

 うちのクラスは文化祭で喫茶店をやることになっていて、今日の午後はそれの準備に当てられた。



 みんなの先頭に立ち、指示を出しているのは永峰さんたちの女子グループ。

 教室の真ん中に高折くんを呼び出して、なにか笑いながら話している。

 永峰さんの手が高折くんの背中を、ぽんぽんっと叩く。



 席替えの日、あんなに怒っていた永峰さんだけど、いつの間にか高折くんと仲直りしたみたい。

 ただわたしのことはまだ恨んでいるようで、時々チクチクと刺すような視線を投げつけてくる。



 だからわたしはできるだけ目立たないように、いつも以上におとなしく過ごしていた。

 もちろん学校で高折くんに話しかけたりしない。

 授業中は前だけを見て、休み時間になると席を立ち、冬ちゃんのところへ行くようにしていた。



 その日もわたしと冬ちゃんは教室の隅で、冬ちゃんの描いた漫画の話をしながら、彼女たちの指示を待っていた。

 するといつも永峰さんと一緒にいる女の子が数人、わたしたちのそばにやってきて言った。



「ねぇ、矢部さんたち」



 わたしと冬ちゃんは顔を上げる。



「ふたりとも美術部だったよね?」

「うん。そうだけど?」



 冬ちゃんが答えた。

 女の子たちは顔を見合わせてから、わたしたちに笑顔を見せる。



「よかったー! プロがいて」

「看板のデザインお願いしてもいい?」

「絵とかうまいんでしょ? 描いて描いて!」



 女の子たちが口々に言う。



「え、わたしたちだけで?」

「うん。看板はふたりに任せるね。わたしたち、食材の買い出しに行ってくるから」

「あ、これ全部作っといて。大きいのは外に飾るやつ。小さいのは教室と廊下に飾るからね」



 わたしたちの前の床に、ものすごく大きな段ボールやベニヤ板や、模造紙などが次々と置かれる。



「足りないものあったら言ってね。用意するから」



 女の子たちは「行こっ」と言って、さっさとその場を離れていった。