「ちょっと矢部(やべ)さん」



 そのとき、ひとりの女の子が、わたしたちの席に近づいてきた。あの騒がしい男子グループと、よく一緒にいる永峰(ながみね)さんだ。



 長い黒髪をさらりと揺らす永峰さんは、他の派手な女の子たちと比べると、髪もメイクもナチュラルだ。

 だけど何もしなくても、永峰さんはすごく綺麗で、そこにいるだけで圧倒的な存在感を放っている。

 そんな永峰さんが目の前に立つから、わたしはちょっと肩をすくめた。



「クラTのお金、まだ矢部さんからもらってないんだけど」

「あっ」



 いけない、忘れてた。

 二学期に行われる文化祭で、クラスでお揃いのTシャツをそろえることになり、そのお金を永峰さんに渡さなければいけなかったんだ。

 永峰さんは不機嫌そうに、わたしの前で腕組みをしている。



「ごめんなさい。忘れてました」

「もうー、締め切り昨日までって言ったよね?」



 わたしは慌てて財布からお金を取り出し、永峰さんに渡す。



「すみません。お願いします」



 永峰さんはお金を受け取ると、何も言わずにわたしから離れ、後ろの席のほうへ向かった。

 そしてさっきとは正反対の甘ったるい声で、ひとりの男子に声をかける。