「雷、そんなに怖い?」

「こ、怖い。だってここに落ちたらどうするの?」

「ここには落ちないよ」

「わ、わかんないよっ、落ちるかもしれない。落ちたらどうするの? 死んじゃうかもしれないんだよ!」



 高折くんの手が止まり、じっとわたしの顔を見ている。



「あ……」



 わたしは右手で口元を押さえる。



「死ぬわけねーじゃん」



 高折くんがつぶやいて、立ち上がった。

 そして黙って洗面所へ入っていく。



『死ぬわけねーじゃん』



 その言葉を頭の中で繰り返しながら、わたしものろのろと立ち上がる。

 そうだ。「死ぬ」なんて言葉、簡単に口にするんじゃなかった。

 しかも高折くんの前で。

 ぼうっと立っていたら、タオルで頭を拭きながら高折くんが戻ってきた。



「あ、お風呂に……」

「あとでいい。だってあんた、怖いんだろ?」

「え……」



 高折くんがリビングに入っていく。わたしはそのあとを追いかける。

 もしかして高折くん、わたしと一緒にいてくれるの?

 そう思った瞬間、また大きな音がした。

 もうやだ。勘弁して。



 耳をふさいで動けないわたしの前で、高折くんは窓ガラスを開き、雨戸を閉めた。

 一瞬聞こえた大きな雨音が、すぐに遠ざかる。

 そしてドアというドアを閉め、小窓のカーテンも閉めた。



「光が見えるから怖いんだよ」



 そう言うと、椅子にかけてあったお母さんのブランケットを手にとり、それをわたしの頭からかぶせた。



「これかぶって座ってな」



 高折くんがソファーに腰をおろす。

 わたしはブランケットをかぶったまま、おずおずとそばに行き、高折くんから少し離れて座った。