「もしもし、くるみ? そっちの天気、大丈夫?」

「え、なんともないよ? ちょっと曇ってきたけど」

「こっちはすごい雨と雷。ゲリラ雷雨ってやつね。帰ろうと思ったら電車止まっちゃって、身動きが取れないのよ」

「ええっ? そんななの?」



 わたしはリビングの大きな窓から空を見上げる。

 少し曇っているが、雨は降っていない。



「そしたらね、静ちゃんのお母さんが、式場のホテルに泊まっていっちゃえばって言うから」

「あっ、そうしなよ。明日も仕事休みでしょ? たまにはお父さんとゆっくりしておいでよ」

「うん……そうね。じゃあ、そうさせてもらおうかな。そっちは蓮くんがいるから、心配ないわね」



 わたしは、はっと息をのむ。

 そうだった。あの人がいたんだった。

 でもお母さん、蓮くんがいるから心配ないって、逆じゃない?

 年頃の娘と年頃の男子がふたりきりになるっていうのに……普通は心配するところじゃないの?

 いや、でも、わたしと高折くんの間に何かが起きるってありえないから、やっぱり心配ないか。



「じゃあ悪いけど、そうするわ。戸締りだけはちゃんとしてね」

「うん。わかった」



 お母さんとの電話が切れた。

 わたしはソファーにぽすんと座って息をはく。

 ミルはまだ、丸くなって眠っている。

 今夜は高折くんとふたりきり……か。

 ぱらぱらと屋根を叩く音がした。

 外を見ると、大粒の雨が降りはじめている。



「ああっ、洗濯物!」



 あわててリビングから庭へ出て、洗濯物をはずす。

 すると遠くの空からゴロゴロと、不気味な音が聞こえてきた。

 そう言えばお母さんが言っていた。すごい雨と雷だって。

 わたしは洗濯物を抱え込むと、急いで部屋へ駆け込んだ。