朝食兼お昼ご飯を食べ終わると、わたしは部屋からスケッチブックや画材を持ってきて、リビングのテーブルに広げた。

 誰もいないんだから、ここで広々と絵を描こう。



 スケッチブックのページを開く。

 絵本を読んでいる男の子の絵。これに色を塗ろうと思う。

 二階から降りてきたミルは、どうでもいいようにわたしをちらりと見上げたあと、ソファーの上で横になり眠ってしまった。



 もうすっかり、この家でくつろいでいるミル。

 ご主人の高折くんは、あんなに気を使っているというのに……。

 ううん、ちがう。高折くんのほうが、ミルを見習うべきなんだ。

 いま、高折くんの家はここなんだから。



 ふうっと息を整えてから、開いたスケッチブックに視線を戻す。

 色は水彩で塗ることにした。淡くてやさしい色がきっと似合う。

 男の子の読んでいるのは恐竜の絵本。絵本から恐竜が飛び出してきたら面白いかも。

 男の子はびっくりしてひっくりかえっちゃうけど、ふたりはすぐに仲良くなって、ここから長い長い物語がはじまるんだ。



 絵を描いていると、ストーリーも浮かんでくる。

 わたしは忘れないように、ノートにお話も書く。

 実はわたしには、小さな夢がある。

 いつか自分で、絵本を作ってみたいと思っているんだ。

 そのためにこのスケッチブックに、たくさん絵を描きためている。

 その夢は、まだ誰にも話したことがないけど。



 誰もいないリビングで、絵を描いたりお話を考えたりしていたら、いつのまにか外が薄暗くなっていた。



「わぁ、もうこんな時間!」



 あわてて洗濯物を取り込もうと思ったら、家の電話が音を立てた。