「これ、六巻で完結?」



 高折くんは漫画の単行本を数冊取り出すと、わたしに顔を向けて聞いた。



「あ、そうです」

「じゃあこれ借りてく。いい?」

「はい。どうぞ」



 高折くんが立ち上がる。わたしもあわててその場に立つ。

 高折くんは背が高い。わたしが小柄だからなおさらそう思える。

 クラスではたぶん、新名くんの次に背が高い。



 そんなことを思いながら、高折くんの視線を何気なく追った。

 高折くんは机の上に開いたままの、スケッチブックをじっと見ている。



「ああっ、それはっ!」



 わたしはあわてて机に駆け寄り、スケッチブックを閉じた。

 高折くんはそんなわたしを見てふっと笑う。



「あのさ」

「はい?」

「おれに敬語でしゃべるのって、やめない? おれたちタメなんだし」

「あ、はい……」



 高折くんはもう一度笑ってから、ひとり言のようにつぶやく。



「敬語でしゃべらなきゃいけないのは、こっちのほうだろ。ずうずうしくこの家に、押しかけてきたんだから」



 ずうずうしくなんて……思ってないのに。



「じゃあ」



 高折くんはそう言って、部屋を出ていった。

 わたしはその場に立ったまま、閉じられたドアを見つめる。

 ふと視線を移したら、高折くんが手にとっていた絵本の背表紙が見えた。

 わたしは座って、もう一度その本を本棚から引き出す。



 小さかった蓮くん。真剣な表情で、恐竜の絵をじっと見ていた。

 ぱらぱらとページをめくる音。

 階下からかすかに聞こえる、お母さんたちの笑い声。

 静かで、あたたかかったふたりだけの時間。



 わたしは絵本を持ったまま椅子に座ると、さっきの絵の続きを描いた。

 絵の中の男の子は絵本を読みながら、幸せそうな顔をしていた。