「この前おばさんが、この部屋に漫画いっぱいあるって言ってたから。暇つぶしに、なんか貸してくれない?」

「えっ」



 お母さん、なんてことを。たしかに漫画は山ほどあるけど。



「で、でも、少女漫画ばっかりだから……」

「いいよ、少女漫画で。時々読んでる。永峰が貸してくれるんだ」



 永峰さんか……高折くんと永峰さんってすごく仲がいいけど、どういう関係なんだろう。



「あっ、ほんとだ、すげーいっぱいあるじゃん」



 気づくと高折くんは部屋の中にいて、わたしの本棚の前にしゃがみ込み、じいっと見ている。

 やだ、どうしよう。絶対引かれる。

 わたしの趣味がぎっしりつまった本棚を、みんなのアイドル高折蓮に見られるなんて……拷問でしかない。



「やっ、これは……その……」



 隠そうとしたわたしを押しのけ、高折くんは漫画の単行本を取り出す。



「あ、これ読んだことある」



 そしてぱらぱらとページをめくったあと、他の背表紙も指先でなぞるように確認する。



「あ、こっちも。面白いよな、これ」



 うそ。高折くんがわたしと同じ漫画を読んでいたなんて……。

 高折くんは持っていた漫画を本棚に戻すと、また別の漫画を取り出し、中を見ている。



 とりあえず、引かれてはいないみたい。よかった。

 ほっと息をついたわたしの隣で、高折くんは一冊の本に手を伸ばした。



「あ……」



 それはあの恐竜の絵本だった。

 高折くんが絵本を出して、ページをめくる。わたしの胸が、とくんっと動く。

 高折くんは思い出すかな。わたしと絵本を読んだあの日のこと、思い出すかな。



 ぱらぱらと絵本のページをめくったあと、高折くんはなにも言わず、それを元の場所に戻した。

 わたしはもう一度息をつく。

 やっぱり覚えていないんだ。あんな小さかった頃のことなんて。