ベッドの上で漫画本を閉じた。

 なんだか今夜も眠れない。時計の針は十二時を過ぎている。

 わたしはベッドから起き上がり、いつも学校へ持っていくリュックを開けた。

 そこからスケッチブックを取り出し、そっと開く。



 色鉛筆や水彩で、ふんわりと塗られたイラストは、わたしの描いたもの。

 いつか冬ちゃんに見てもらおうと思って持ち歩いているんだけど、なかなか見せられない。

 わたしは冬ちゃんみたいに、自分の描いたものを堂々と人に見せることができないんだ。



 白紙のページを開いて、鉛筆で絵を描いた。

 今ふと浮かんだイメージは、小さい男の子が絵本を読んでいるところ。

 そのイメージが消えてしまわないうちに、わたしはできるだけやさしいタッチで紙に描く。



 そのときドアを叩く音がした。もうお母さんは眠っている時間のはず。

 まさかお父さん? こんな時間に何の用だろう。



「はい?」



 鉛筆を持ったまま首をかしげると、ドアの向こうから低い声が聞こえた。



「おれだけど。まだ起きてるよな?」



 お父さんじゃない。高折くんだ。

 わたしはあわてて立ち上がる。

 あんまりあわてたせいで、太ももを机にぶつけてしまった。



「電気ついてるの、わかったから」

「はいっ。起きてます、けど?」



 返事が妙にぎこちない。

 だってこんな時間に、まさか高折くんとしゃべるなんて、思ってもみなかったから。



「入ってもいい?」



 どうしよう。恥ずかしい。わたしパジャマなのに。

 でも変に意識するのもおかしいし、わたしは平静を装って答えた。



「ど、どうぞ」



 すぐにドアが開いて、高折くんが顔を出す。

 高折くんは黒いTシャツに、短パンをはいている。

 髪は少し乱れていた。わたしは机の前に、気をつけの姿勢で立っている。



「なんか眠れなくて。昼間寝ちゃったからかな」



 そうか、高折くんも眠れなかったのか。

 高折くんは立ちつくしたままのわたしに言う。