きみとぼくの終わらない物語

 その日はずっと、ぼうっとしてしまった。

 わたしに差し出された高折くんの大きな手が、頭の中にちらついてしょうがない。



 なに考えてるんだろう、あの人。

 教室でわたしに声をかけてくるなんて、今までなかった。

 それも、お金貸して、なんて。

 そんなことしたら、冬ちゃんだけじゃなく、みんなにヘンな目で見られてしまう。



 いいのかな、高折くんは。

 わたしと暮らしていることがみんなにバレても、いいのかな。



「あっ……」



 帰りのバスの中。

 気づくと降りるはずのバス停はもう過ぎていて、一つ先のバス停が近づいていた。

 なにやってるんだろう、わたし。

 自分で自分にあきれながら次で降り、とぼとぼとバス停一つ分を歩いて戻る。



 家に着くと、玄関の鍵が開いていた。

 遅くなってしまったから、お母さんが帰ってきたんだ。



「ただいまぁ」



 靴を脱いでリビングに行く。

 すると目の前のソファーに誰かが横になっていた。



「ひっ……」



 びっくりして息を吸い込む。

 よく見ると、制服を着た男の子が、猫をお腹に乗せて目を閉じている。

 そうか、高折くんか。

 いつもリビングにはいないから、なんだか調子が狂った。