***



 夏休みが終わったばかりの教室は、誰もがだらけきっている。

 きっとみんな夏の彼方に、『やる気』というものを忘れてきてしまったに違いない。

 特にわたしたち高校二年生は、一年生のときより学校に慣れ、三年生のように受験に追われることもなく、のんびりと学校生活を過ごしていた。



「このクラスはまだ、夏休み気分が抜けてないようだな。明日テストをするから、覚悟しておくように」

「えーっ!」



 落胆と抗議の入り混じった声と、六時間目終了を告げるチャイムが同時に響く。



「テストあるなんて聞いてないよー」

「今日のノート写させて」



 ガタガタと机や椅子が動き出す音。

 慌ててテスト対策をはじめる生徒は、まだいいほうだ。

 気にも留めずに部活に向かう生徒や、授業が終わっても机に顔を押し付けて、眠り続けている生徒さえいる。



「え、マジで?」

「超ウケるわ、それー」



 教室の後ろの方で、大笑いする男子たちの声が聞こえた。

 明日のテストなんて気にも留めない、代表的な人たち。

 わたしは振り向かないようにして、机の上を片づけはじめる。



「くるみ。部活行こ!」



 そう言ってわたしの席に近づいてきたのは、同じ美術部の冬ちゃんだ。

 短めのボブカットに赤いフレームの眼鏡をかけた冬ちゃんは、胸に漫画の単行本を抱えている。

 その表紙を見て、わたしは「あっ」と声を上げた。