「くるみ!」



 朝、教室に入ろうとしたら、冬ちゃんが駆け寄ってきた。



「じゃーん! 描いてきたよ、漫画の続き」

「あ、すごい! 見せて!」



 冬ちゃんが両手で持っている、紙の束に手をのばす。

 だけど冬ちゃんは、それをさっと交わした。

 わたしたちの脇を、大声でしゃべっている男子が通り過ぎる。



「ここではちょっと。さすがに恥ずかしいからさ。放課後、部室でね」

「えー、早く見たいのに!」



 冬ちゃんと漫画の話をしながら教室に入る。

 やっぱり冬ちゃんとこうやっているのが、一番楽しいな。

 そんなことを考えていたら、いきなり目の前に高折くんの姿が見えて、わたしはあわてて視線をそらした。



 高折くんは毎朝、わたしより早く家を出る。

 自転車とバスだから通学手段は違うんだけど、それでもわたしを避けるかのように、さっさと家を出てしまう。



 べつにいいけど。一緒に登校なんてしたくもないし。

 そんな姿を誰かに見られたら、とんでもないことになる。

 小さなため息をついて席に座った途端、永峰さんのよく通る声が教室中に響いた。



「蓮ー、おはよー! お金持ってきたぁ?」



 その瞬間、わたしの心臓がきゅっと縮まった。

 額に嫌な汗が、じんわりとにじんでくる。

 わたしは自分のリュックを両手で抱え込んだ。