きみとぼくの終わらない物語

「こんなところでなにやってたの?」



 高折くんの座っていたベンチに座った。

 今日もわたしの右側には高折くんがいる。



「暇だったから。なんとなく」



 わたしたちの足元に寄ってきたミルを、抱き上げながら高折くんが言う。

 高折くんは「なんとなく」って言うけれど。

 わたしは高折くんの見ていた空を見上げる。

 暗くなった空には、星が瞬きはじめていた。



「ねぇ、星の話して?」

「え?」



 高折くんが不思議そうにわたしを見る。



「高折くんがお父さんに話してもらった話、わたしにもして欲しいの」



 わたしも視線を下ろし、隣にいる高折くんを見た。

 ミルを抱いた高折くんはじっとわたしの顔を見つめたあと、ふっと笑ってまた上を向く。



「そうだな……なんの話をしようかな……」



 高折くんが、どこか懐かしそうに目を細める。

 きっとお父さんのことを思い出しているんだ。



「じゃあ……あの三つの星」



 高折くんの左手が動いて、人差し指がすうっと空を差す。

 わたしはそれを隣で見上げる。



「オリオン座の話をしようか」



 わたしがうなずくと、高折くんはお父さんから聞いたという、オリオン座の神話を話しはじめた。

 狩りの名人オリオンと、月の女神アルテミスの、悲しい恋の物語だ。



 わたしは高折くんの声に耳を傾ける。

 低くて甘い、わたしの好きな声。



 やがてわたしたちは物語の世界に引きこまれる。

 寒いのも忘れて、ふたりで星を見上げながら。

 そしてわたしは思い出す。

 高折くんとふたりだけの部屋で、恐竜の絵本を読んだことを。



 あのときもわたしは思っていた。

 この静かであたたかい時間が、ずうっと続けばいいのにって。

 この物語が、永遠に終わらなければいいのにって。



 そんなことを考えていたわたしの手に、なにかが触れた。

 どきっとして手を引っ込める間もなく、ふわりとわたしの手が包み込まれる。

 あ……どうしよう。



 ちらりと目だけで隣を見た。

 高折くんは空を見上げたまま、表情を変えずに話を続けている。

 胸をどきどきさせながら、視線を落とす。

 わたしの手は高折くんの大きな手に、ぎゅっと握られていた。



 ゴロゴロ喉を鳴らして、高折くんの膝の上でミルが寝返りをうつ。

 風はつめたかったけど、つながった手が、ほかほかとあたたかくなってくる。